厄介だからなお慎重に
地境について

  現代日本のような高度管理会社にあっては、土地の所有権などの重要なことは、当然に行政官庁のどこかで厳しく管理されている、あるいは、してくれているものと思っていらっしゃる方も多いと思います。確かに大枠ではその通りでしょうが、現実の個々の問題については、決してそうではありません。
例えば、土地の所有権そしてその及ぶ範囲の境、いわゆる地境について考えてみても、実はこの地境はどこの誰も特別に管理してくれてはないのです。法務局に土地・建物登記簿というのがあります。しかしある人の名前が、ここに記載されているからといって、それがそのままその人がその土地・建物の真の所有者であるという証明にはなりません。これを「登記に公信力は無い」と言っております。もちろん自分名義の登記があって、かつその土地建物を占有していれば、ほぼ問題はありません。
ところが、地境の確定ということになるとなお難しいものがあります。端的に言えば、戦国武将と同様に、自分の土地は自分で守らねばならないのです。つまり依然として「一所懸命」の地というわけです。
以前、私のお客様に地境争いが起きました。その時、双方の主張の食い違いの中で、ある1本のコンクリート境界杭が、そのお客様にとって不利な材料となっておりました。
その件を相談したところ、お客様の弁護士曰く「どうしてそれを抜いてしまわないの?」と。むろん冗談です。もっともこちらは半分本気で受けとめたい気持ちでした。(但し、これを実行して発覚した場合には、刑法第262条2境界標損壊罪で5年以下の懲役、という刑事犯になります。念の為!)コンクリート杭は、隣地地境を明確にして、かつ、それを常に管理するという点で、自分の土地を、自分で守る手段としては、かなり有効だったのです。
隣接地主に地境立ち会いを求め、現場で立ち会いの上、不明瞭な地境を双方納得の上、決定して、杭を入れます。一般にはこの方法によって不明瞭な地境を一つずつ確定していきます。実のところ、地境( ≒ 筆界)というものは公法上のものであり、民間人同士が任意で決めるのは、本来でありません。なぜなら、そうすると市町村、あるいは都道府県の面積が変わってしまうからです。しかし、現在では民民の間の地境争いについて、一応当事者が合意することは、差し支えないということになっております。
<盛岡地裁 S.40.7.14判決>そこで将来地境争いを起こさない為、その境界を明認させる方法を講じます。それは一夜で簡単に抜けてしまう杭だけでなく、ブロック塀・あるいは土留を兼ねたコンクリート布基礎のような境界標を作るなど、この時こそ一生懸命やらねばなりません。
私の経験ですが、ある大地主さんに地境の立ち会いを求めました。以前その辺りに、コンクリート境界杭があったはずだったのですが、永年のうちに「紛失」してしまい、関係者は困っていました。その日、大地主さんは、古めかしい実測図をご持参になり、それに従って一緒に連れてきた職人に、杭のあった辺りを指差し、「ここを掘れ」と、指示しました。なんと地下1mの所に長さ3尺、根本に十字に足をつけたコンクリート杭が、しっかり出てきました。これには集まった人達もびっくりして、一にも二もなく地境が決まりました。昔からの大地主さんの、土地への執念というか、土地を守る知恵というか、これで一件落着でした。
しかし、またこのような例もありました。
やはり私のお客様が、隣地地主へ地境立ち会いを求めました。この場合はコンクリート杭が境界として、約20年程前からあったのですが、当日その隣人は、その杭から当方の側へ約50p位入った所が地境であると言い出しました。
よく事情を聞いてみると、昔この地境は、私のお客様の亡くなった父上と決めたものであり、その当時、自分は若く、その父上(当時、町内のボス的存在であった旨)に負けて、押し付けられたものであるとのこと、時が移り世代が変わって、今度は当方が若く、先方が強い立場となってしまっている訳です。この時は特に、当方がこの土地を売却する予定であり、地境確認が急がれる事情であったので、泣く泣く先方の言いなりにならざるを得ませんでした。とんだ「江戸の仇を長崎で」でした。
地境の問題は全く難しいものだと思いました。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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