どうしてますか?
地代の払い方・受取り方

  日常生活のなかで、私たちは数多くのものについて、一定のお金を一定の期間毎に支払ったり、受け取ったりしています。毎月与える子供へのお小遣い、毎月受け取るご主人のお給料、年金の受け取り、預金の利息や株の配当の受け取り、電気、ガス、水道そして電話などの料金の支払い、実に様々な種類のものを毎月あるいは3ヶ月に一度あるいは1年に一度などと、支払ったり、受け取ったりしているのです。
  それらのものについて、支払いあるいは受け取りの期間、時期そして方法によって、私たちは支払うものについては非常に苦痛を感じる場合とそうでない場合、あるいは受け取るものについては、大変有難く思える場合とそうでない場合とがあります。

  その良い例がご主人の給料でしょう。昔、お給料はほとんどが毎月末に現金で支給されたものでした。世のご主人達は、支給された給料袋を持って(大抵の場合)真っ直ぐ帰宅し、奥様へそれを渡しました。「パパ、今月もご苦労様でした」とこれまた(大抵の場合)奥様はご主人に向かって言ったものでした。この一言でご主人の1ヶ月の辛い労働は報われました。ところが今はどうでしょう。給料の支払いは、そのほとんどが銀行振込となってしまい、月末にもらう給料袋の中身は明細書の紙一枚です。これでは真っ直ぐ家へ持って帰って奥様に「ハイこれ!」と渡しても、一言も無くさっと目を通されて終わりでしょう。
  このように、同じものでも払い方、受け取り方によって、払う人・受け取る人に気持ちの上で大きな違いが出てくるものなのです。

  それでは借地の地代の場合はどうでしょうか。まず、実際の地代の支払方法には、期間・時期・場所など様々ありますのでそれを整理してみましょう。

  まず支払うべき期間です。家賃の場合は毎月ごとに支払うケースがほとんどですが地代の場合は、毎月の他に、半年分あるいは1年分のまとめ払いが広く行われています。

  次に支払い時期ですが、前払いと後払いの二通りがあります。そして最後に支払う場所ですが持参払いつまり地主の家と、集金払いつまり借地人の家とがあり、最近では前述のお給料の場合と同様に地主の銀行口座への振込みがあります。
  まとめてみますと、以下の通りとなります。

   支払い期間   1. 毎月
2. 半年
3. 1年
支払い時期 1. 前払い
2. 後払い
支払い場所 1. 持参(地主の家)
2. 集金(借地人の家)
3. 銀行振込(地主の銀行口座)


  先日、私の所にいらしたある地主さんから、ただでさえ安い地代を半年後払いされて癪にさわるので、前払いにさせることは出来ないかと問われました。答えはノー、というよりも変更は不要つまりそのままが良いということです。その理由は、前払いでも後払いでも経済的には大した差はないのに、何十年と続けてきた方法を変更することが、相手との感情的なトラブルを引き起こしかねないからです。そしてもう一つ理由がありますがそれは後で説明しましょう。
  地代の支払いには、その期間、時期そして場所の組み合わせによって具体的な方法は様々となります。最近では通常一番多いと思われますのは、家賃などと同様に「毎月前払い銀行送金」でしょう。しかし、昔からの習慣が今でも続いている場合「毎月後払い持参」もありますし、「半年後払い集金」などという例も数多くあります。「大家は親、店子は子」という昔流の大地主さんなどは、年に一度の大晦日に自分の借地人が一年間元気でやっていたかを確かめるように、地代集金を兼ねて彼らの所を回ります。これは「一年後払い集金」となります。

  さて、このように様々ある地代支払いの具体的方法のなかで、どれが良いものなのでしょうか。あるいはどの方法にすべきものなのでしょうか。

  原則的には契約上の取り決めに従うことになりますが、どれが良いものかということになれば、やはり「毎月前払い持参」でしょうが、昨今、お互い忙しい身であれば持参のところは「銀行振込」に置き換えても良いでしょう。
  「毎月」が良いのは、毎月定額のもので請求書が来ない支払い(地代は通常請求書が発行されないものです)はつい忘れ易いものです。まして、それを半年あるいは一年に一回支払うとなれば、さらに忘れ易くなりますから、毎月支払うようにしておくことで忘れてしまうリスクを回避することが出来ます。
  「前払い」が良いのは、先程の地主さんの例にもあるように、ただでさえ安い地代なのだから、せめて感謝の気持ちを込めて前払いにすべきということでしょう。また、なんでも先に先に済ませておけば万一忘れたりしても時間的に余裕があることにもなります。
  そして「持参」が良いのは、借地関係のベースは人間関係で、良い人間関係をつくる基本は、本人同士が直接会っていることですから、地代を持参することで地主さんと直接会う機会を作ることは良いことなのです。「毎月」払いであればそれだけ数多くあうことにもなりますからなお良いわけです。

  借地人にとって一見良く見える組み合わせに「一年後払い集金」があります。嫌な(!)地主と顔合わせるのが一年に一回なら大変結構、前払いより後払いのほうが利息のことを考えると得である。持参は面倒臭いが集金に来てくれるのは有難いという、なんとも物臭タイプの方法です。
  ところがこの方法は、借地人にとって実は超恐怖!の組み合わせなのです。私の関係した実際の事案なのですが、数十年この方法によって地代を支払っていた借地人がいらっしゃいました。ある年、固定資産税が大幅にアップした為、地主は地代をその率で大幅に増額してきました。もちろん借地人は、それを拒否しました。借地人に法的知識が十分あれば、この段階で、従来の額を差し出して地主の地代受取拒否を確認した後に、供託をすべき所でした。しかし、地代の支払方法が「一年後払い集金」という組み合わせ方法であった為、大晦日に、地主が例年の如く地代を集金に来なかっただけという一見非常に平穏なかたちで、「地代1年不払い」という最悪事態が発生してしまいました。翌年地主から地代支払いについて催促がありましたが、地代値上げの件でむかっ腹を立てている状態でのやりとりです。借地人にしてみれば「そんなに欲しけりゃ、今まで通り取りに来い」といった調子でした。この借地は地主からの地代不払いによる明渡し訴訟を受け、最高裁まで争った結果借地人の全面敗訴(昭和50年9月13日判決)となり、「争いを好む者は罪を好む」の罰でしょうか。即時無償明渡しとなってしまいました。

  先程私の所にいらした地主さんの話によせて、後払いを前払いにしなくても良い理由を後で説明するといった意味が、お分かりでしょうか。

  借地とは、そもそも他人(地主)の物(土地)を料金(地代)を払って使わせてもらっていることが基本となります。そして、借地関係とは特定な人間同士が何十年と変わることのない関係を維持しなければならないということなのです。人間関係をベースにした経済・法律行為と言ってもよいでしょう。まさに借地問題は法律・経済・人情の三巴の問題なのです。せめて地代という借り賃・料金ぐらいは、感謝の気持ちを持って誠実に支払うことが、借地人にとって最も大切なことなのだと思います。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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