別れも楽し
貸地(借地)の解消−1

  今回は、借地関係の解消について地主、借地人両者の立場から、それぞれが納得できるメリットについて2回に分けて考えてみたいと思います。
  第1回は精神的側面から、第2回に経済的側面から述べることにします。

  さて、借地人は、借地上の建物について、増築・改築あるいは新築・建て替えをする場合、原則として地主の「承諾」を得なければなりません。借地権自体を第三者へ売却する場合はなおのことです。そして、その「承諾」が得られた場合は地主に「承諾料」を支払う必要があります。
  この「承諾料」なるものは、実は法律などによって定められているものではありませんが、日頃の地代が比較的低いので、それを補う意味で、節目ごとに一時金としてまとめて支払う地代のような性質のものとされています。ですから各々の借地契約によって事情が違うのでその金額も違います。借地人は、例えば増築する場合、地主さんの所へ行って何故増築することになったのか、例えば子供が大きくなって1人部屋が必要になったとか、息子が嫁をもらって同居することになったとか、ある場合には他人にはあまり言いたくない家庭の事情まで話して、その承諾をもらうことになります。そして、承諾してもらったら、次に私はもうじき定年になるのでお金に余裕がないとか、嫁取りにお金がかかるので大変だとか言って、承諾料を安くしてもらう交渉をしなければなりません。

  一方、地主の承諾が得られない場合は、借地法第8条第2項に従って裁判所へ申し出ますと、裁判所が地主に代わって、原則的には承諾してくれます。これを借地非訟事件による代諾許可と言います。期間はほぼ1年はかかります。但しこういった場合でも、地主に申し込まずに、いきなり裁判所へ申し出る訳にはいきませんから、借地人が増改築・新築・借地権譲渡等をしたいと思ってから、裁判所による代諾許可を手に入れるまでの期間となると1年半から2年を見なければなりません。その間に借地人の家庭の事情に変化が生じたりして、許可は取れたが、所期の目的が無意味になったり、機会を逸失するなどという事も起こり得ます。そして、この裁判所による代諾許可でも、やはり世間相場の承諾料を地主に支払うよう、裁判所から申し渡されるのが普通です。

  次に借地人は概ね20年に1度借地契約の更新をしなければなりません。この時は更新料を地主へ支払う必要がありますが、ここでも更新料を安くしてもらう交渉が必要となるでしょう。また多くの場合、2年ないし3年毎に地代の値上げ時期が来ます。そこでも借地人は、様々な理由を述べ立てて、地代をあまり高くしないで欲しいと交渉しなければなりません。
  上下水道・ガス管等の地中埋設物について、あるいは隣地からの水の侵入、敷地内に崖地があれば崩れの危険、崩れればその復旧、また地境問題で隣地とトラブルが起きればその度に地主さんにお願いして来てもらい、その裁量を仰がなければなりません。言葉にすれば簡単なようですが、実際はひどく煩わしいことなのです。もし借地関係を解消するなら借地人はこれらすべて地主さんとの交渉事から、解放されることになるでしょう。そして、その安心感ははかり知れないほどなのです。

  一方、地主の側も借地人側の立場でこれまで述べたような煩わしい交渉から、貸地関係を解消することによって同様に解放されます。借地人とのその都度その都度の交渉は、地主業としてビジネスライクに徹することのできる人は別ですが、大部分の地主さんは、「日曜地主」(平日はサラリーマンで、片手間に地主業を営んでいる地主さん、半サラ、半地主)ですから、煩いを背負った上に、つい借地人さんもお金が無くて大変だろうなどという人情から、ビジネス的には損をすることもしばしばです。「情に棹させば流される」で、ビジネスと人情はなかなか両立しにくいものなのです
  「地主」といった「主」の付く言葉には、家主、株主、金主、社主、馬主、昔の話では領主、国主、少々変わったところでは神主に坊主などを思いつきますが、今の日本では地面の持ち主である地主がこれら「○主」の中では一番割りが悪い存在なのかもしれません。これからは地主と呼ばず借地人に対比して底地人としてはどうでしょう。(ジュール・ベルヌの「地底人」のような響きで地主さんには少々失礼ですが…)

  要するに今の日本の地主・借地人関係とは、土地という「物」を間に挟んで人情だけではうまくいきそうでいかず、さりとてビジネスライクには事が運びそうで運べず、まして、法律だけでは到底裁けず、両者とも必要以上に相手方に気を遣い、神経をすり減らしながら、仕方なく付き合っているという状況が一般なのです。地主・借地人両者にとってこの精神的負担を取り去ることが、貸地(借地)関係解消が精神上のメリットとして極めて大きいことをお分かりいただけたでしょうか。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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