相続対策
「不良(!)資産」の優良化

  一般に、日本人の財産の8割は不動産であると言われております。その不動産も、実はいつまでも「不動」というわけにはいかず、相続が発生した際、複数の相続人が居れば何分割かしなければならず、また納税の為の売却という状況も生じてきます。
そこで、それらの不動産を分割しやすい状態に、あるいは売却しやすい状況にしておくことも相続対策の一つの課題となります。
分割しにくい不動産だからといって、複数の相続人が、安易に共有にしてしまうと、後日お互いに事情が変わって、その不動産を利用、あるいは売却しようとする時、容易に話し合いがつかないことも起きます。つまり「共有」が「共憂」となってしまいます。
また、売却しにくい状態のまま相続を迎え、相続税申告期限後3年以内に売却できなかった場合は、相続税の取得費加算という譲渡所得税の減税特例が使えなくなってしまいます。一方、売却を急げば足元を見られ、不当に安く買いたたかれてしまいかねないのです。
こうした問題を先取りして、あらかじめ不動産を分割しやすく、売却しやすい状態に加工処理すること、合わせてこの加工処理の過程で相続税の節税をすることについて考えてみたいと思います。
さて、不動産のうちでも特に分割しにくく、売却しにくいもの、いわゆる「不良資産」の筆頭は貸宅地でしょう。
地主さんの中には、もともとほとんど人助けのつもりで一時金も取らず、かつ安い地代で、何十年貸していて、今になって借地人の側には、借地権が5割あるいは6割あると言われて、納得いかない方々も多いのではないでしょうか。
そうした不満の声を少しでも反映させようと、平成4年に借地法の改正が図られましたが、平成4年の改正借地借家法では、まだまだその辺りは不十分と言わざるを得ません。
自分の土地の問題は、自分で解決、それが基本となることを改めて認識しなければならないのです。
では、標題に掲げた、貸宅地という筆頭不良(!)資産を優良化するとはどのような事か、また、どのようにすれば良いのかについて少しご説明しましょう。
貸地契約(借地契約)は、相続発生までになるべく解消しておくこと、これが第一の要諦であると思います。相続が発生してからこれをやろうと思っても、「足元を見られる」事もあり、なかなか思うようにはいきません。
その具体的な解消の方法には原則として以下の4つがあります。
1. 地主さんが借地人に底地を売却する。
2. 地主さんが借地人から借地権を買い取る。
3. 地主さんの底地と借地人の借地権とを等価交換し、敷地を一定割合で引き分ける。
4. 地主さんと借地人が底地と借地権とを第三者に同時に売却する。
第1と第2の方法ですが、この場合、地主・借地人ともどちらがどちらを買い取るにしても、更地の価格をいくらに決めたら良いのか、参考として公示価格・路線価・固定資産税評価額そして実勢相場価格等があるにしても、これが一番難しい問題となります。
いずれにしても、お金というものは、払う方は少ないのが良いし、受け取る方は多いのが良いものです。その調和点をどこに求めるかについて、私達は長年の経験から次のような方法を採用しております。
まず始めに、借地権割合について相互に確認します。その場合、国税局発表の路線価図がもっとも良い参考になります。例えば、その場所がC地区であれば借地権割合は7割とか、あるいはD地区であれば6割というようになります。
更地価格を決める前にこの借地権割合だけを先に決め、後で更地価格が決まったら、この割合で金銭精算をすることになります。この場合実際には、貸地(借地)関係が解消されると借地人にとっては、譲渡名義変更料・契約更新料・建て替え・増改築承諾料等が、それ以降すべて不要となるので、その分この割合決定に際して配慮することになります。例えば、路線価で6:4ならば5:5であるとか、7:3ならば6:4というように話し合いにより決めるのです。
次に決めるのは更地価格です。その際この価格を決める権利と相手方の底地あるいは借地権を買い取る権利を双方に分けます。
一方が価格決定権を持った場合、他方は相手方の底地あるいは借地権に対する先買権を持ち、先買権を持った方が権利行使しない時、つまり買わなかった時は、価格を決定した方が、他方の底地、あるいは借地権に対する買い取り義務を負います。
こうしますと、地主が価格決定権を持ち、借地人に底地を・・高く売ろうと思っても、先方が先買権を行使しないと、その・・高い更地価格×借地権割合で、・・高い借地権を買う義務を負わされるということになります。その逆もまた真なりです。
地主と借地人が、各々の底地と借地権の売買値段をゲーム感覚で決めようとするところから、私はこの方法を「底地借地権値決めゲーム法」と名付けています。
この方法を採用しますと、水が低きに流れる自然の摂理のように、話し合いがうまくまとまる可能性が大きくなります。
第3の方法は、最近では広く行われております。この場合、平均的住宅地では地主と借地人は、土地の所有権を1:1で等分するケースが多いようです。
第4の方法は、ディベロッパーが買い上げに来た時などに見られます。この場合、地主と借地人との割合は、原則、話し合いによりますが、東京国税局で発行している路線価図に示されている借地権割合を参考にすると良いでしょう。
いずれにしても、このような話し合いは、借地契約の更新時に切り出すと、よりスムーズに進むことが多いようです。「機を見て立つ」という諺はここでも生きているのです。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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