大家さん 困ってませんか?
木賃古アパート(木造賃貸老朽化アパート)

  地主さん、家主さんなどのいわゆる資産家にとって、「貸宅地、古貸家、古アパート」は三大不良資産といわれています。一般に、「不良資産」の定義は、収益性つまりその物件から得られる地代・家賃などの収入から、その維持にかかる経費を差し引いた収益の多寡の具合、そして換金性つまりその物件が一般市場で売買される際の難易度の二点で決められます。
この定義に従えば資産家三大不良資産の筆頭は、何といっても「貸宅地」でしょう。
しかし、「古貸家」「古アパート」もこれに負けず劣らずの不良資産なのです。
 今日はこのうちの古アパートについて述べてみましょう。
 一口に不良資産と言っていますが、もう少し正確に言うならば、昭和30年代のアパートブームの頃、盛んに建築された木造賃貸アパートで、現在では築後40〜50年以上となっており、相当に老朽化が進んでいるものを指します。これらの木造賃貸老朽化アパート(木賃古アパート)は概ね下図のような悪循環に陥っています。



 ここまではっきり言ってしまうと、こうした木賃古アパートを所有している大家さん、あるいは、そこに住まわれている入居者に対して大変失礼なのかもしれません。これをお読みのこうした方々に対して、もしこのレポートが不快感を与えるならば、この場をお借りして誤らせていただきます。しかし、あえて誤解を恐れずに、こうしたことを述べるのは、次のようなわけがあります。
 それは平成7年1月17日に起きた阪神大震災です。平成23年3月11日に起きた東日本大震災は地震そのものの被害というより津波が原因の被害が主でしたので、ここでは阪神の例でお話しします。私は自分の仕事柄もあり、震災後3ヶ月以内に3回ほど現地へ視察に行ってきました。震災直後の第1回目の時などは、電車もほとんど動いておらず、道路も倒壊した建物でふさがれ、現地はまだ煙が立っているような状況でした。倒壊した建物の中には、まだ生き埋めの人がいるのではないかと、思わず心配になるほど現場の惨状はひどく、また片付けも全く手がつけられていない頃でした。
 テレビや新聞の報道では、倒壊したビルや住宅なども多く紹介されていましたが、それらはマスコミの性質上、話題性のあるものが多く取り上げられているようでした。しかし現地では、古い木造アパート、いわゆる「文化住宅」と現地で称されている築30年以上の老朽化した木造2階建賃貸アパートが、何棟も何棟も倒壊していました。今回の死傷者の多くが、こうした老朽化したアパートの住人であり、その死因は建物倒壊による圧死であると聞いております。
 現地を視察しながら、このような倒壊した古アパートを多く見て、どうしてこうなってしまったのか疑問に感じざるを得ませんでした。そして思い至った原因が、先に述べました「木賃古アパートの悪循環」でした。
 本来、弱者を守るべき借家法が、借家人の居住権を保護するあまり、家主からの家賃の値上げや立退き請求を難しくしてしまい、「悪循環」を増幅させ、その結果阪神大震災のような震災で大災害を生じさせてしまったというのも、一面の真実ではなかろうかと思います。
 借家人を社会的弱者と捉え、その居住権を保護することは間違いではありません。しかし、それ以上にその生命、財産を守ることも重要なことであろうと思います。この古アパートの家主と借家人との関係が、お互いに少々の犠牲を払ってでも、もう少しスムースに解決整理されることが、両者にとって非常に望ましいことなのではないでしょうか。
 話を元に戻しましょう。この「木賃古アパートの悪循環」の状況のもとで、第1に相続が発生したらどうなるのでしょうか。また第2に地震が起きたらどうなるでしょうか。
まず相続についてですが、相続税を支払わなければならないほどの資産家の場合、この古アパートは、「貸宅地」と同様非常に不都合なものであるといえます。地上の建物がいくら古アパートであるといっても、その土地は大抵の場合駅歩5〜10分くらいの住宅一等地にあり、その相続税評価額も非常に高額である場合が多いものです。しかし反面、古アパートゆえ家賃は不当に低く、また売却換金も難しい状態です。つまり、相続税は高額に課税されるのに、売却して金納もできず、延納しようにもそれほどの家賃収入もなく、さらに物納するにも、「管理・処分不適」として受領されません。要するに、このままで相続を迎えると、非常に困った事態になるということです。
次に、地震が起きたらどうなるのでしょうか。阪神大震災のように大規模なものならば、たとえそのアパートが倒壊して、借家人や通行人などの第三者へ損害をかけたとしても、その法的責任は家主に無いかもしれません。いわゆる大規模自然災害による不可抗力となります。しかし、中規模地震(震度4〜5)で、周辺がほとんど被害を受けていないのに自分のアパートだけ倒壊して、借家人や第三者へ損害を与えた場合は、少々事情が異なります。
具体的な条件などにより一概には言えませんが、借家人に対しては民法415条の修理修繕義務不履行によって、また第三者に対しては民法717条の工作物責任によって損害賠償をしなければならない義務が生じる可能性があります。
阪神大震災や、今回の東日本大震災などでも、中心部は震度7の激震でしたが、同心円状に遠ざかった地域では、震度6・5・4となります。そしてそうした中規模震度地域でも、建物の倒損壊が発生しております。そうした地域で家主に対する損害賠償の民事訴訟が多発しました。
アパート経営はさまざまな事業、商売のうちでも、最もリスクの少ないものの一つです。しかし、その事業、商売で金銭収入を得ている以上、他人の生命財産に損害を与えるような事故を起こさないようにしなければなりません。そして万一事故を起こせば、その法的責任は重く当然に追求されます。
木賃古アパートの悪循環に陥っているアパートを所有する家主さんは、その状況を放置せずアパート経営の原点に戻り、また今回の阪神大震災の教訓を真摯に受け止めて、それに対する対応、改善策を講じるべきだと思います。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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