絶対必要!
アパートの定期的な家賃値上げ

  10年程前のことでしたが、私の扱った案件で次のようなケースがありました。
土地の広さは40坪程ですが、そこに古い平家建の貸家が一見建っていました。40数年一定の方に貸していて、家賃は10年前で月3万円でした。当時、土地の価格は坪@250万円位でしたから、約1億円位の資産でしたが、家賃収入は年間36万円で、固定資産税程度にしかなりませんでした。
古い家ですから、時々雨漏りがするし、床も抜けたりしますが、大家さんにしてみれば、そのような修理・修繕費を出すのでは、会社経営として大赤字になってしまうので、思いもしないことです。
しかし、一方、借家人はこれでは困りますので、やむなく自分で費用を出して直していました。そして「いざ鎌倉」、大家さんは財産整理のこともあり、この「不良資産」を優良化しようと考えました。しかし、借家人のいる古く汚い貸家が建っている土地では、なかなか売れません。結局このケースでは借家人が常識的な良い方でしたので、ある程度の立退料で双方納得をして一件落着しました。
といっても、借家人にしてみれば、長い間家賃3万円という生活費のパターンで過ごしてきたので、改めて同じような立地と家の広さを求めると、家の新しい古いは別にしても、10数万円の家賃ということになってしまい、その後の支払いがきつかったようです。
また、立退に際して、今まで借家人として、この家の家主の代わりにかけてきた修理・修繕費等についての返還の話も出ました。(法律的には、有益費償還請求権あるいは造作買取請求権の問題になります。)
大家さんは家賃が安いので、貸家に対して修理・修繕の追加投資をしなかったから、その分お金はかからなかったのですが、結局は立退きに際して、その分もまとめて一括して払わされたことになります。
このケースは、家賃が安い→追加投資をしない→建物が古いまま→だから家賃が安い→だからよけいに追加投資をしない、という典型的な悪循環に陥ってしまってきたわけです。
家賃というものは、常に適正額に保ち(定期的に一定の値上げをするということになります。)そのかわり、家主の義務である貸家の修理・修繕・保守・管理をしっかり果たすこと、要するに大家さんとしては、もらうものはしっかりもらい、やるべきことはやる。そして借家人としても、払うものはきっちり払い、そのかわり、やってもらうことは、やってもらうということが、結果として見れば、双方に最も有効なやり方なのです。
ですから私は、貸家・アパートの大家さんに対して、常々家賃は定期的に適正な値上げをしなさい、と言い、借家人・入居者にも、同様に適正な家賃値上げは受け入れなさい、と勧めてきております。これが正当な経済行為というものなのです。
「大家といえば親も同然、店子といえば子も同然」とは熊さん八っさんの時代からの古い言い方ですが、実は経済行為に妙な情を絡めるとかえって「親子」の縁がおかしくなることもあるのです。
大家さんも、隣人としての付き合いは付き合い、賃貸借という経済行為は経済行為と割り切って、きちんとした話し合いをした上で、お互いに要求するものは要求することが大切です。「情に棹させば流される」のです。まして値上げ交渉は面倒だといった手抜きなど、大家さんという立派な経済人のとる道ではないでしょう。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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