本当に支払わないで良いのか
借 地 契 約 更 新 料

  結論から申し上げましょう。本当に支払わないでも良いのです。非堅固の建物(木造)の場合、普通の借地契約は20年で、そして、その20年毎に地主と借地契約についての書換更新をします。その際、慣習として更新料を地主は借地人に借地権の5%〜10%相当額を要求します。大概の場合借地人は何か釈然としないままこれを支払います。
  しかし、時としてこの更新料を支払わない借地人もいます。当然、地主はその対抗手段として、契約の更新を行いませんので「契約書」は改めて作成されません。ということは、この場合、契約書は20年前のままのものとなるわけです。普通ならば契約更新をしなければ、この契約は終了して借地人はその土地を地主へ返還して、立ち退かなければなりません。

  ところが、この法治国家日本でもこの借地契約だけは、公然と契約を破ってもなんの罪にもなりません。それどころか、「借地法」という法律があり、この契約破りを法的に保護してくれます。地主が「更新料を支払わないなら、借地契約を更新しない」といった場合ですが、この理由だけでは、「正当な事由」なしに地主が借地契約の更新を拒否したとされ、同法に基づき「法定更新」と称して、従前と同様の条件で借地契約が更新されたものと見做されるのです。これに対して、更新料を支払って地主の合意のもとに契約を更新する場合を「合意更新」と言います。「更新料は本当に支払わなくて良いのか」という問いに対しては、答えはこうしてイエスとなるのです。

  それでは何故一般慣習として、多くの借地契約で更新料が支払われているのでしょうか。支払った借地人は「正直者はバカをみる」ことになってしまうのでしょうか。
  そこで、そもそも更新料とは何なのか、どのような性格のものなのか、ということを考えないと、この話は理解しにくいのです。更新料のみならず、借地契約上慣習的に授受されている各種の一時金、建替承諾料、増改築承諾料、借地権売却に伴う名義変更承諾料なるものは、一口に言って日常の安い地代に対する一種の経済補填です。一般的に、地代がどれくらい安いのかと言いますと、更地で坪100万円前後の所で地代は平均坪当たり300円位でしょう。これを収益利回り的に判断しますと(300円×12ヶ月)÷100万円=0.36%となります。
  100万円は更地評価ですので、借地権分(通常6割)を差し引いた底地分の4割を分母として、収益利回りを考えても(300円×12ヶ月)÷(100万円×0.4)=0.9%にしかなりません。
  金利の安い昨今のことではあっても、1%にも満たない収益利回りは相当低い経済効率といえるでしょう。そこで知恵者のどこかの地主が、契約期間中に起こる借地人への各種の承諾に対して何がしかの一時金を取ること、また契約を更新する時、名義を変更して契約を書き換える時などにまとまった一時金を取ることを思いついたという訳です。ですから、この地主の「生活の知恵」である更新料を借地人が支払わず、法定更新されてしまうのは、地主にとっては大変不都合なのです。経済的にも大いに期待はずれとなってしまいます。一方で、更新料を支払った借地人と他方で更新料を支払わなかった借地人とでは、当然目に見えて経済的損得の差があります。複数の借地人を抱えた地主の場合は、更新料を支払わなかった借地人に対して、更新料を支払った借地人に対する手前もありますから、一応の対抗策をとらざるを得ないでしょう。

  一般的に更新料を支払わない借地人に対して、ともかく地主としては、借地契約は存続していない、もしくは、あなたとは円満な借地契約をしていないという立場をとります。そこで具体的には、土地明け渡し訴訟を地主が起こすということにもなります。しかし、これは地主の側になかなか勝利の女神は微笑まないので、通常の場合、地主は借地人が家を建替えたい、増築したい、また、改築・修理したいという要望をすべて断わる手段に出るでしょう。もしくは、承諾するから、前回の時の更新料と今回の承諾料を両方支払ってくれと要求することになるでしょう。

 これに対して、借地法という法律は、再びこの更新料を支払わなかった借地人に味方します。これらの承諾も地主が正当な事由なく拒否する場合は、裁判所が代わりに承諾を与えることになっています。これを代諾許可の非訟事件といいます。

  しかし、この方法は借地人が新築・増築あるいは改築修理をしようと思う度に弁護士に依頼して裁判所に申し出なければならず、この許可が下りるまでに1年ぐらいかかるというのが現実です。また、大規模な修理修繕でなければ地主の承諾を要せずに工事をしても差しつかえありませんが、実際には、どこまでの工事が大規模なのか、あるいは地主の承諾を要しない小規模なものなのか、素人には容易に判断できません。
  もし、地主の承諾を得なくても良い程度の工事と思い、かつ、裁判所の許可も得ずに工事を行ってしまい、その件で地主から契約不履行を問われてしまったらどうなるでしょうか、最悪の場合土地の明け渡しとなってしまいます。
  さらにいえば、本当に地主の承諾を要せずに可能な小規模な修理修繕だとしても、はた目に大規模に見えたり、また、地主からみて小規模なのか大規模なのか、分からない場合、地主としては、その工事が終わってしまったら、取り返しがつかなくなりますので、工事中途での「工事禁止の仮処分」という法的な手段もあります。そうなると借地人は法的争いとして、この工事についての地主の承諾の要不要を正さなければなりません。こうなると、「円満な借地契約」は破れてしまいます。そして「円満でない借地関係」のもとでは、地代の高い安いだけでなく、種々の点において非常な煩いを背負い込むことになります。

  話は戻りますが、更新料は本当に支払わなくて良いのかという問いに対する正解は、法律上は支払わなくても借地契約は継続できる、しかし、地主との円満な借地契約の継続は期待できないということになります。

  こうして整理してみると貸地(借地)問題とは、法律と経済と人情の三つが絡み合った問題だということがご理解いただけるでしょう。ですからその一面だけとらえて、早計に結論を出さないことが賢明なことであると思います。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


メニューへ戻る 上へ戻る