貸地関係解消法のウルトラC
貸地を貸家に変える!

  貸地関係の解消法以下の通り4つの基本方法と6つの応用方法があります。

  <基本4法>
  (1) 地主が借地人へ底地を売却する。
(2) 地主が借地人から借地権を買い戻す。
(3) 底地と借地を等価交換して、その敷地を一定割合で引き分ける。
(4) 地主と借地人が底地と借地権を第三者へ同時に共同で売却する。


  <応用6法>
  (1) 地主の底地と借地人の別の土地(更地)とを等価交換する。
(2) 地主の別の土地(更地)と借地人の借地権とを等価交換する。
(3) 等価交換手法によるマンションをディベロッパーが建設し、底地権・借地権分の専有床をもらい、それを地主と借地人が一定割合で分ける。
(4) 地主は底地を、借地人は借地権を各々別に地上げ業者に売却する。
(5) 地主は底地を底地買い専門業者へ売却し、その業者が借地人へ底地を売却する。
(6) 地主は相続で物納して、将来借地人は国から底地の払い下げを受ける。

  これらについては、すでにハートレポートでご紹介してきましたので、今回はこれらの方法によらない貸地関係解消法のウルトラCともいうべき方法をご紹介しましょう。

  私がコンサルティングにあたった一つの事例をまずお話しましょう。
  地主さんの貸地関係解消の強い希望を受けて、私はある借地人さんを訪ねました。上品で物静かな老婦人の一人暮らしのご家庭でした。3年前にご主人を亡くされ、またお子様はいらっしゃらず年金でつつましく暮らしておられました。そして、婦人は不治の難病を負っているとの事でした。こうした環境下でこの貸地関係解消という地主さんのご依頼をどのように実現すべきか、貸地関係解消のコンサルティングを相当数手がけてまいりました私も、正直この時は困りました。
  貸地関係解消のコンサルティングは、たとえ地主さんの依頼を受けて着手しようとも、最終的には、地主・借地人双方が納得する案によらなければ、本当の意味での解決にはなりません。ですからこの老婦人の場合の納得のいく解決法をいろいろ考えたのです。

  基本4法のうち、第1法である「地主が借地人へ底地を売却する」方法は、年金暮らしの婦人にとってはとても底地を買い取るだけの一時金を支払えず無理です。それに今持っているある程度の貯えは、ご自身の病の治療費として残しておかなければなりません。むしろこの為の費用として今の貯えでも不足するのではないかという心配さえしておりました。
  基本4法のうち第2法である「地主が借地人から借地権を買い取る」方法を検討しました。この場合、借地人は借地権を地主へ売却するわけですから相当額の一時金が入手できます。この方法は婦人にとって今後の治療費の準備金としても良いものでした。しかし反面、自己居住用の不動産を別途に求めなければなりません。借地権の売却金でそれを買い求めるならば、差額金を残すつもりでも、それほど多額なお金は残りそうもありませんでした。また、買わずに賃借する方法も検討しましたが、今までずっと自分の持家で暮らしていたこと、また、家賃では毎月の出費がかさむことなどを考えるとこれも良しとはいえませんでした。

  基本4法のうち第3法である「底地と借地を等価交換して、その敷地を一定割合で引き分ける」方法も、建物がその敷地に対して、ほぼ一杯に建っていて、引き分けるにはその建物を取り壊さなければなりません。また敷地もあまり広くないので、この方法も難しい状況でした。

  「地主と借地人が、底地と借地権を第三者へ同時に共同で売却する」という基本4法のうちの第4法も、前記の第2法のような借地人の都合でできません。

  貸地関係解消法の方法には、前記したように基本4法・応用6法と10通りの方法がありますが、これらの方法はすべてこの場合、「帯に短し、たすきに長し」ということでした。しかし、一人暮らしの難病を背負っているこの婦人にとって、今回の貸地関係解消の話は、まとまった一時金が手に出来る機会となれば、非常に好都合であるとの事でした。地主さんのみならずこの借地人さんからも、各々の願いが叶う方法を考え出すように改めて強く要請されました。

そこで最終的に私が提案した方法はいったん地主が借地人から借地権を買い取り、その後、地主と借地人の間で、地主の所有となったその建物の賃貸借契約を結んだらどうかというものでした。つまり、借地人は自分の家を借地権つきで売却し、その後、その家を地主(こんどは家主となりますが)から借家する訳です。そして、その借家契約にこの婦人一代限りの借家とする旨の特約をつけます。この方法ですと、地主の意向である貸地関係は解消でき、借地より権利の弱い借家という方法に切り替えられ、なおかつ同人一代限りの借家ということであれば、いわゆる「貸地」のように「永久」に戻らないものではなくなることになります。また、この婦人の万一の場合でも、借家ならば遠縁の親戚の誰かに相続されてしまうこともありません。
  一方、借地人の側も、借地権を売却してまとまった一時金を入手でき、なおかつ従来通り「自分の家」に住み続ける事が出来ますので、住まいの環境の大きな変化もなく、引越しの必要もありません。本件の場合、地主さんの理解と好意により、家賃も従来の地代の2倍程度(周辺相場としては地代の5〜6倍)ということになり、入手した一時金の一年間の預金利息以下で済んでしまいます。こうして地主さん借地人さん双方の事情を斟酌した上で、それぞれの希望もすべて叶いました。

  貸地関係とは、法律と経済と人情の三つ巴の問題であると私は常々言っておりますが、今回の場合は、これらの三要素が地主・借地人両者にとってすべて良い方向に働いた例となりました。

(※こうした場面では「定期借家契約」を利用すると良いでしょう。)

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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