両者納得
底 地 価 格 の 求 め 方

  貸地関係の解消の方法として最もポピュラーに行われているのは、地主が借地人に底地を売却するという方法です。土地が広く、地形が良ければ、その敷地を1:1で引き分けるのが税金も一切かからず、お互いが納得できる最も良い方法だと思います。しかし、常にこれができる条件が備わっているとは限りません。換金する場合は、地主と借地人が底地と借地権を共同で同時に第三者へ売却するのが最も高い値段で換金できる方法ですが、これには借地人が住む所を新たに手に入れなければならず、税引き後の売却代金だけで入手できるとは限りません。一方、地主が借地人から借地権を買取る場合、共同同時売却よりもその借地権価格は安くなるのが一般ですから、税引き後の売却代金で借地人が新たに土地を買い求めることは更に難しいことになります。
  貸地関係の解消の方法は、理論の上では様々ありましょうが、実際上は冒頭の地主が借地人に底地を売却する方法に概ね絞られてきます。
  それでは、この際の底地値段はどのように決まるものなのでしょうか。

  物の値段は、基本的には自由な市場で、不特定の者同士が、互いに自由に選択できる状況下において決められるものです。そこにつまり「見えざる神の手」が働いて物の値段は決められるのですが、底地の値段はどうでしょうか。ここでは売り手は地主、買い手は借地人、売り物は底地、つまり売買条件のうちで決まっていないのは売値だけであって、その他の条件ははじめから決まってしまっています。
  こうした拘束された条件下の取引で、値段を決めることは極めて難しいことです。
  この問題について、これまでのハートレポートでも幾度か言及してきました。[相続対策「不良(!)資産の優良化」ではこれをいわばゲーム感覚で決めようという方法を呈示しました。また[借地と底地「売ったらいくら、買ったらいくら」]では、その価格にガイドラインを設定する方法を紹介しました。
  今回は、もう一つの方法、いわば積算して答えを出す方法を紹介しましょう。

更地所有権地価相場  ×  底地割合  ×  (1−値引き率)  =   底 地 価 格


  これが、底地価格を決める積算法の公式です。
  まず始めに「更地所有権地価相場」についてご説明しましょう。
  土地の値段は、今の日本では一物四価とも一物五価ともいわれており、物価の本来である一物一価の法則から大きく逸脱しております。それだけにどう決めるかが難しくなるのです。ここで四価とも五価ともいわれる「価格」は次のとおりです。

  第1は、現在本当に売り買いしている価格、これを実勢価格とか実際の取引価格とか言います。第2に固定資産税などの課税のための「固定資産税評価額」。そして第3が相続税評価のための「路線価」、第4が「公示価格」となります。この第3と第4については、第4の公示価格の80%の水準が第3の路線価となっています。つまり路線価=公示価格×0.8ということです。

  次に「底地割合」ですが、決まりとしては、前述の「路線価」が記載されている東京国税局発表の路線価図による権利割合が最も良いと思います。ただし裁判例やその地方の慣習によって路線価割合と異なる場合もあるようです。

  最後に「値引き率」ですが、底地も借地と共同同時売却すればその本来価値が100%実現するのですが、借地人が底地を買取るという場合は、従来からの様々な事情を考慮することになりますし、地主による売り急ぎ、借地人による買い焦りもあります。また借地契約の更新が間近であれば、更新料のことを考慮に入れることにもなるでしょう。また、家が古くなっていて借地人の側が建替えを希望していれば、建替え承諾料のことも考えに入れてこの値引き率を決めます。(ハートレポート[借地と底地「売ったらいくら、買ったらいくら」]を参照)概ね、20%〜50%位の値引き率ならばお互い納得できるでしょう。地主さんにしても、もし借地人に買ってもらうのでなくプロの底地屋に引き取ってもらうのならば底地価格は更地の10%〜15%位が相場です。そうすると底地価格が更地の40%としたならば値引き率は、なんと7割〜8割以上になってしまうのですから、これくらいは地主さんも底地を売る以上納得せざるを得ないでしょう。

  さて、こうした考え方を前提にしながら、売り手の地主さんの側に立って買い手である借地人さんに対するプロの話の進め方をご紹介しましょう。交渉は次のように何段階かのステップを踏むことになります。
  「更地所有権地価相場」が@150万円/坪、「底地割合」が路線価で40%、「値引き率」も35%位は仕方ないという状況を設定した場合の交渉ステップを四段階に分けて、図に示します。

  更地所有権地価相場×底地割合×(1−値引き率)=  底地価格
ステップ1. @100万円/坪×  40%  × (1−75%)  =  10万円

@200万円/坪×  40%  × (1−0%)   =  80万円

  第1ステップでは、@150万円を真ん中にして上下を大きくした幅で地価相場を示します。底地割合は路線価を使います。そして、値引き率については最大75%最小0%とします。

  更地所有権地価相場×底地割合×(1−値引き率)=  底地価格
ステップ2. @125万円/坪×  40%  × (1−50%)  =  25万円

@175万円/坪×  40%  × (1−20%)  =  56万円

  第2ステップでは地価相場をもう少し絞ります。同時に値引き率も同様に少し絞ります。こうして、お互い誠実に話し合いを重ねながら、少しずつこれらの数値を絞り込み、最終的にある程度お互いが納得するような価格に落ち着くようにしていきます。

  更地所有権地価相場×底地割合×(1−値引き率)=  底地価格
ステップ3. @135万円/坪×  40%  × (1−40%)  =  32.4万円

@165万円/坪×  40%  × (1−30%)  =  46.2万円

  第3ステップでは地価相場と値引き率を更に絞り込みます。このステップでは最終的な落ち着きどころを意識しながら絞り込みの交渉をします。

  更地所有権地価相場×底地割合×(1−値引き率)=  底地価格
ステップ4. @150万円/坪×  40%  × (1−35%)  =  39万円

  第4ステップは最終的な結着のステップとなります。客観的な更地所有権地価相場と主観的な値引き率について、お互いに十分交渉した上で、第3ステップの最小と最大の価格の真ん中のところ、いわゆる「なかをとって半分」の価格で決めます。
  この「なかをとって半分」といういたみ分けの解決法こそ、日本文化の伝統的なものであり、最終局面では常に一番有効な結着方法です。しかし、この「なかをとって半分」方法を採るについては交渉事の積み残しをしてはいけません。小さな未解決な交渉事が一つでもあると、「なかをとって半分」で一度決まった価格が、その為にまた更に相手方に引っ張られてしまって安くなってしまうこともあります。
  たとえば、100万円と200万円のなかをとって半分で150万円にいったん決まります。しかし、100万円を主張する側にとって有利な未解決な事項があり、それを乗り切るために、再度妥協して100万円と150万円のなかをとって半分をとり、結局125万円というようになってしまうこともあります。

  以上、具体的な交渉ステップについて述べてきましたが、ここで重要なポイントは第1数値である「更地所有権地価相場」はあくまで「客観」的なものとして取り扱い、貸地関係にある特別な「事情」あるいは買い手にとって安いほうが良い、売り手にとって高い方が良いという「気持ち」などの「主観」的都合は第3数値である値引き率のところで綱引きをする、つまり値交渉することです。この「客観」と「主観」の分離が両者の話し合いの場で可能でありさえすれば、この交渉は必ずまとまることでしょう。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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