場合いろいろ
底 地 の 売 買

  貸地(借地)関係の解消法には、4つの基本方法の他にそれらの応用型など、幾通りもの方法があります。しかし、実際に行われている方法で、借地人のメリット・デメリットという点からみても最も効率的かつ現実的なものは、地主が借地人に底地を売却する方法です。今回は、この方法を採用しようとする場合の、地主や借地人の都合あるいは事情について考えてみることにします。

  はじめに地主の側についてみてみましょう。
  地主にとっての貸地は、誰が見てもその地代が土地の価値からみて割が合っているとは思えません。そのうえ、地代の値上げ、契約の更新など借地人といやな交渉もしなくてはならないのです。そこで早くこんな貸地はやめてしまいたいものだと思うのももっともです。一般的にいって、最近では地主は借地人がそこそこの値段で底地を買取ってくれるのなら、是非売りたいと思っている例が多いのです。特に地主が小さな地主の場合、平日はサラリーマン、日曜日に地主稼業の「日曜地主」の場合はなおさらのこと、貸地関係など解消してしまって肩の荷を降ろしたいと思うわけです。
  しかし、その反対に、大地主でそれを本業としている地主、いわゆる「本業地主」の場合は、日曜地主がこの肩の荷と思っているものこそ本業なのですから、それを降ろすというのはおかしなことです。地主を本業でやっていれば2件や3件の裁判を抱えていても不思議ではありません。彼らにとっては、自分で直接に、あるいは弁護士や業者を使って間接に、借地人と交渉、話し合いまたは訴訟をすること自体が日常なのです。こうした大地主の場合、必要に迫られて仕方なく底地を売ることはあっても、貸地関係を解消するための底地売却には積極的ではありません。
  こういう地主の土地の借地人は幸か不幸か底地を買わずに済みますが、反対に底地を買えないのですから、いつまでも借地のままということになります。しかしこうした大地主さんでも、相続税の節税という立場から、大量の底地を相続発生までに急いで手放すという例もあります。こうした場面では、大量の底地を短期間に処分するので、底地売却価格は相当安く設定されます。借地人にとってはそれこそ「千載一遇」のチャンスですから、その際は是非ともこの底地を買取り、借地関係を解消する方向に向くべきでしょう。

  そこで次に借地人の側から考えてみましょう。
  借地人の側は、ほとんどの場合買取れるお金さえあれば買取りたいと思っています。しかし、お金に余裕のある人は世の中にさほど居るものではありません。どのような場合、借地人は底地を買わないか、そして、その事情をどうやって乗り越えて買取るか、そこに借地人側の焦点があります。
  借地人が底地を買わない理由の一つに、意地を張っているというのがあります。永年の借地関係であれば、そこには行き違い感情が積もり積もっているのです。そして、地主が底地を買ってくれと頼んできた時に、その恨みを晴らすべく、地主の頼みを聞かない、つまり底地を買わないという手に出がちなものです。
  さて、これを解決するには、地主・借地人本人同士ではなかなか難しいと思います。誰か適当な第三者を間に立てて、感情的な問題は一応言うだけ言い、聞くだけ聞くとしても、感情まで整理して解決しようとせず、その問題はそっくり箱に入れて蓋を閉めてしまうようにします。そして主として、経済的損得勘定におきかえて、売買交渉の途中で底地価格を少しでも値引きさせるというところで「恨み」を晴らす処理をするのがよいのです。「感情を勘定に(!)」、解決しにくい恨みつらみが多いからこそ、この借地関係は解消すべきものと考えるのです。
  さて、買いたいがすぐにお金の調達が出来ないという場合には、銀行ローンがつくまでの間、あるいは、向こう5年または10年支払いの月賦にすることによって一応底地売買を済ませます。売り主が買い主に対して、その売買代金を月賦にする方法があり、アメリカではオーナーキャリーと言います。むろんこの場合、代金未回収分についての保全はしっかりと行われる必要があります。しかし、売り手の地主は従来の煩わしい貸地関係ではなく、単に債権の回収という問題に専念すれば良いのであり、もし回収が不能となったら、その土地の所有権のうちの底地権相当金額を戻してもらえば良いのです。それでは「元の木阿弥」ではないかと、先に決めつけてしまわずに、可能性があればやってみるのが、こうした問題の処理の基本なのです。
  借地人が定年間近とか、定年後の老夫婦の場合も、なかなか底地を買ってもらうのに難しい例です。先方に幸い社会人の息子さんがいて嫁ぎがあれば、息子名義で買ってもらい、親が息子へ地代を払うという方法で解決できます。しかし、稼ぎのある息子もいない場合は、仮にその老夫婦に退職金など、今まで蓄えたお金があっても、自分達の老後の生活のことを考えると、果たして底地を買うのが良いのか否かといった問題にぶつかってきます。底地値段がよほど安いのなら買った方が良いことは分かりますが、それ程でもない場合、この老夫婦にとっては借地のままで余生を静かに暮らすことが一番幸せかもしれません。
  そうした人情も十分承知した上で、今ここでお金を出して底地を買ってしまって所有権にした方が、今のままの借地権よりもはるかに価値ある資産となるということを考えてもらうことが大切です。資産とは、その必要が生じた時に相応の価値のお金に変えうるものであるというのがその定義で、その意味からすれば、単独では換金しにくい借地権というのは完全な資産であるとは言えないのですから。
  若いうちに働いて稼いだお金を蓄えて、引退した老後はその蓄えを少しずつ崩して暮らすというのが、人生の基本パターンです。そうした場合主要な蓄えでもある土地・家なのですから、うまく換金できない借地では、この基本パターンさえ保持できないでしょう。今あるお金という金融資産の大部分を土地という実物資産にかえてしまっても、その土地が「いざ鎌倉」という時に換金できるものならば、底地を買うということは今持っている借地権という資産の価値をより増大させることになるのです。この底地買いは正解である場合が多いと思うのです。ここで大切なのは、いざという時の換金の可能性です。その土地が、底地を買って土地所有権としても、いざという時売却しにくい土地であるのなら、底地を買わない方が良いのです。

  貸地(借地)関係解消の方法として、地主が借地人に底地を売却する(借地人が地主から底地を買取る)ことが知恵のある方法であるとしても、地主あるいは借地人がそれぞれの都合や事情をよく推測し、見極めた上で交渉を開始することが、その交渉を成功させる為の秘訣であると思うのです。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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